プロジェクト原価計算に必要な人月単価の計算方法を説明する

今回はITエンジニアの人月単価について説明します。「受注制作のソフトウェア」の原価計算において必須の知識となります。

ソフトウェア制作の原価計算と製造業の原価計算で異なる点は、ソフトウェア制作の場合その原価の構成要素がほとんど人件費となる点です。そのため、いかに加工費を計算するかが最大の焦点となり、人月単価は加工費を計算するうえで重要なパラメータとなります。

人月単価の計算式

ソフトウェア制作の原価計算において人月単価や時間当たり単金を設定することが必要となります。人月単価の計算は工業簿記における製造間接費の予定配賦率と全く同じ考え方となります。工業簿記では次の式で予定配賦率を求めます。

これをソフトウェア制作の言葉に置き換えると以下の式になります。

総工数を人月ではなく総開発時間にすれば、時間当たりの単金を求めることができます。

総開発費の内訳

ソフトウェア開発の場合、費用のほとんどが人件費だと言いましたが、もちろん他にも費用が発生します。例えば、プログラミングを行うための開発環境としてソフトウェアライセンスを購入すれば、減価償却費が毎月発生します。また、賃貸ビルで開発作業をしていれば家賃の負担もあります。

開発費というのは開発に直接かかった費用だけではなく、オフィスの賃料や水道光熱費、書籍代、通信費など間接的にかかってくる費用も含まれているのです。

具体例・・A社の場合

ここでは架空のシステム会社(A社)を例に単価計算の流れを見て行きます。A社には開発部門が2つあり、それぞれにマネージャーが1名とその部下が3名いるとします。人件費は次の通りです。

役職 給料
マネージャー 600,000円/月
平社員 400,000円/月

合計すると、マネージャー600,000円/月×2名+平社員400,000円/月×6名=3,600,000円/月になります。

これにソフトウェアの償却費と家賃の計800,000円を加えて、ひと月当たり4,400,000円が開発部門から発生することになっているとします。この時の人月単価(開発費)は、次の通りです。

人月単金(開発費)が決まれば、プロジェクトごとの開発費は次の式で求めることができます。

仮にプロジェクトAで6.5人月、プロジェクトBで1.5人月、の開発を行ったときの開発費はそれぞれ、以下の通りです。

プロジェクト名 人月 人月単金 開発費
プロジェクトA 6.5人月 550,000 3,575,000
プロジェクトB 1.5人月 550,000 825,000
4,400,000

以上のように人月単価によって開発費の計算ができるようになりました。決算での仕掛計算はここで算出した人月単価を使って行います。

見積用の人月単価

しかし話はここで終わりません。仮に営業が1人月かかる仕事を毎月550,000円で受注してきたらどうなるでしょう。開発部門は、売上=開発費となるので赤字になりませんが、商談を取ってきた営業や管理部門の費用は全くまかなえていません。

上で計算してきた人月単価は開発費の計算として使用するものであり、商談を受注する際の見積もりには使用できないことに注意してください。

会社全体で赤字にならないためには、営業や管理部門の費用も含めて単価を計算しないといけないのです。以下では商談の見積もりを出す際に使用する人月単価を算出していきます。

営業部門(2名)と管理部門(1名+社長)の費用をが次の通りであったとします。

営業費用 800,000円/月
管理費用 2,500,000円/月

開発費の4,400,000円/月と営業費用及び管理費用を合算すると、総発生費用は7,700,000円/月となります。営業が商談を受注する際に計算すべき人月単価は、次の通りです。

営業が1人月かかる仕事を毎月962,500円(×8人分)で取ってきてようやく会社全体として利益がゼロになります。

実際には人月通りの費用でプロジェクトが完了することはまれです。安全を考えると今回の場合は1人月百万円で受注することになりそうです。

等級別の人月単価

以上の人月単価は、マネージャーも平社員も同じ開発者として計算してきました。しかしシステム開発の世界では1人当たりの生産性が全く違うため、全員の人月単価を同じ金額とする計算のやり方はかなり乱暴のように思われます。

例えば今回の場合だとマネージャーと平社員の人月単価が同じ金額になっていますが、両者は異なるべきでしょう。そのために以下のようなマネージャーと平社員の2パターンに分けて費用を算出してみます。

この時、マネージャーの人月単価は、

となります。一方、平社員の人月単価は、

となります。この人月単価を使えばより精緻な原価管理が可能となります。

例えば、営業が商談X(3,000,000円)と商談Y(900,000円)を受注するか判断する場面を考えます。商談Xはマネージャークラスを1人月と平社員2人月が必要だと判断され、商談Yは平社員1人月が必要だと判断しました。

【ケース1:人月単価が1種類しかない場合】

商談Xは粗利が以下の通りプラスだったため受注しました。

一方、商談Yは平社員の単価962,500円に満たないため、受注しても赤字となることから受注しませんでした。

【ケース2:人月単価が2種類ある場合】

商談Xの粗利がプラスとなるため受注しました。

商談Yは平社員の単金890,278円だったので、粗利は900,000 – 890,278 = 9,722円となりプラスであるため受注することになりました。

以上のように人月単価の計算の違いによって、商談の獲得行動が変わってくることが分かりました。この例題ではもちろんケース2の商談X,Yともに受注するのが正しい選択となります。精緻に単金を計算するほど、正しい選択ができる可能性が高まります。

一方でマネージャーや平社員に支払う給料の金額は原価計算の結果とは全く関係がありません。商談を受注する判断において人月単価の違いが出てくるだけとなります。

また、受注時に考えている人月はあくまでも見積りに過ぎないため、実際の人月は異なってきます。従って、いくら精緻に人月単価を計算したとしても、受注時に人月の見積もりを誤れば損益は当初の予定からずれてきます。人月単価を細かくすればするほど計算が複雑となり見積りミスも増えてきます。

人月単価はどのレベルが自社のコスト管理にふさわしいかを考えて決定すべきものとなります。

原価計算はソフトウェア制作でも工場のものづくりでも計算方法は同じです。簿記2級の工業簿記をしっかりと勉強すれば、実務において知識不足と言われることにはならないでしょう。