AIは経理を失業させるか

今話題のAIが経理に与える影響を考えてみた。
一部の仕事はAIに奪われるものの、そうならない仕事もそれなりにあるように思える。

コンピュータの進歩とともにシステム導入コストが減少し、システム費<人件費となったため人件費の抑制を狙ってシステム化を企業は始めたが、それに加えて、人口減少社会に突入し労働人口が減少して人手不足が叫ばれますます仕事のIT化を進めるに至っている日本企業。
今度はAIを使って自動化、無人化に向けた動きを見せ始めるようになってきた。

そのような中、世間のいたるところでAIに仕事を奪われ失業してしまうのではないかと心配する声が上がっている。
経理業務も例外ではなくむしろ仕事を奪われる筆頭のように言われている。

AIと経理

厚生労働省のページに2016年8月2日公表の「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために懇談会 報告書」という資料がある(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000132302.pdf)。
この資料の29ページ目の①に「50過ぎまでは、近所の会社で経理を担当していました。でも、経理業務はどんどんAIに代替されていきました。・・・」という出だしで始まる話が記載されている。 厚生労働省から見ても経理業務というのはこれからどんどんAIに代替される仕事であると認識しているようである。

また、野村総研の発表した「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」にも経理事務員として経理の名称が記載されている(https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx)。

一方で、AIによる経理業務の代替はそれほど進まないのではないかという声も周りからは聞こえてくる。
「目の前の複雑な仕事をAIがどうやって片付けるのか想像もつかない」と言う。
経理と一言で言ってもその中身は多様であり、AIに代替されるのが具体的にどのような仕事を指しているのかハッキリさせなければ、当然ながら人によって結論が異なることになる。
経理のどの仕事がAIに置き換わり、どの仕事が残るのかについて考えてみたい。

AIは何をしてくれるのか

具体的にAIは何をしてくれるのだろうか。
AIが経理の仕事を奪うのは将来の話であるため、今の時点で具体的な経理業務が行えるAIがあるわけではないが何ができるのか想像くらいはできる。

売掛金の消込

どの会社でも苦労していると思われるが、入金と売掛金の照合には時間と手間がかかるものである。対して複雑でもないため誰でもできるが、規模が大きくなると専門の部隊を作らないといけないほどの作業になる。
これを人工知能で行えれば、その費用対効果は極めて高い。
実務的に送金遅れや送金額の誤り、手数料の有無など送金側のミスが頻繁に発生するため機械的に消込をかけられるほど甘くはないが、そこは人工知能が学習して何とかしてくれるのであろう。

支払処理

現場が作成する支払依頼書と請求書を基に自動仕訳を起こすだけなら、今時どこの会社でも行っている。
問題は勘定科目の選択と請求書通りに支払依頼書を作成しているかという2点を確認する必要があることだ。
請求書を画像認識処理にかけて必要なデータを取得し、それと支払依頼書の各項目を突合すればエラーは発見できる。
勘定科目も過去のデータから学習することで、請求内容や会社名から推測することは可能であろう。
この処理はAIへの移行が比較的早そうな気がする。

これら債権・債務の処理は人手を多く必要とするものの、あまり複雑な判断は無く機械的な処理及び確認となることからAIに代替される可能性は非常に高いと言える。
しかし、そもそもこれらの処理に知能が必要なのだろうか。
開示情報で使用するXBRLのようにXMLを使った請求書や送金データのやり取りが実現できればAIなど導入するまでもなく無人化できる。
AIの実用化を待つよりも、国レベルでフォーマットを固めて利用を強制させた方が断然良いと思うのだか・・・

AIでは出来ないこと

AIが万能のように語られることがあるが、過去のデータに基づいて処理を決めるにすぎないため過去データのない仕事はできないし、過去の延長にはない将来予測も不可能である。

予算作成

もちろんAIが全く予算作成をできないと主張するわけではない。
固定費は過去データにより即座に算出してくれるに違いない。
しかし、予算は経営者の思惑が入る。
誰もが不可能と思う予算を目指すと経営者が言い出した場合、AIは作成してくれるのだろうか。
無情にも「達成不能」とエラーを出すだろうか。
経営者がそうしたいという思いがある以上、それに沿って、それっぽい予算を作成する必要がある。
この辺のさじ加減はAIには当面無理であろう。

決算説明資料の作成や決算数値の分析コメント

こちらも経営者の好みが反映されるところである。
事実を書いただけなのに経営者の逆鱗に触れ理不尽にも怒られることが良くある。
AIが作成したコメントなど恐ろしくてそのまま出すわけにはいかないだろう。

※おそらく、決算数値の分析はAIの方がはるかに適切に作成できるはずである。優秀な経営者ならばAIの作成した耳の痛い指摘にもキチンと向き合ってくれるだろうが、隠したいこと触れてほしくないことがあるのも人間である。いくら正しい結論をAIが出したとしても、それを使う人間次第でAIの評価は変わってくるであろう。

どのようにして経理の仕事は奪われていくのか

おそらく初期段位では、人間の補助的な業務を担っていくと思われる。
例えば、これまでは全件チェックしていた支払処理をAI導入後は、初めに間違いがありそうな個所をAIに特定してもらい、その箇所だけ人間がチェックしていく様な使い方になるのではないだろうか。
完全にAIに任せるにはかなり時間がかかると思われる。
細かいことを気にする日本企業には難しいかもしれない。
海外で完全AI処理が導入されて、それが日本に上陸するいつものパターンで実現する気がする。

この先経理はどうなるのか

複雑な判断が必要となる仕事は今のまま残り続けるはず。
事務作業は大半がAIに代替されることが予想される。
しかしその速度は決して早いとは言えない。
現に、現状の事務作業もAIなど使わなくてもシステムにより代替できるのであり、予算や社内リソースの不足によってシステム化が進んでいないだけと思われる。
AIが登場したところでそれを導入するには人手が必要であり、人手不足の世の中では普及速度はそれほど早くないことが予想される。

まとめ

AIブームに便乗して必要以上に不安を煽り立て注目を集めようとする人たちが相当いるようである。
自分は仕事をAIがやってくれるなら嬉しいことこの上なく、それで解雇されたなら次に仕事となる新しい事を探そうと思っているだけなので不安に感じたことはない。
AIが人間を支配するという話も、どのように支配するのか興味はあるが不安はない。

それよりも本当にAIは仕事を代わりにやってくれる程まで進化できるのか、技術の実現可能性の方に疑いを持っている。
以前に読んだ『人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書)』(松尾 豊著)には過去に何度もAIブームがあり、そのたびに大きな失望をもたらしてきた歴史が書かれていた。
今回のブームがただの一過性のものにならず、経理業務に大きな変革をもたらしてくれるなら不安ではなくそれを楽しみに自分は待ちたい。